商業簿記は、買った物をそのまま売る会社の簿記でした。 工業簿記は、材料を買って、工場で作って、できた製品を売る会社の簿記です。
あなたの会社でいえば、物販は買って売るので商業簿記の世界です。 工業簿記は、「作る」が間に入った分だけ、記録する勘定が増えます。
そして一番の目的は、製品1個あたりにいくらかかったか(原価)を出すことです。 これを原価計算といいます。第4問・第5問の計算は、ほとんどがこの原価を出す問題です。
製品を作るためにかかったお金は、3つに分けます。
| 種類 | 何のことか | 例 |
|---|---|---|
| 材料費 | 材料を使った分 | 部品・原料・工場で使う消耗品 |
| 労務費 | 工場で働く人に払う分 | 賃金・工場の給料 |
| 経費 | 上の2つ以外 | 電力料・減価償却費・外注加工賃 |
材料費・労務費・経費は、さらに2つに分かれます。
直接費は、どの製品にいくらかかったかがはっきり分かる物です。 間接費は、複数の製品のために使われていて、1つの製品に結びつけられない物です。
間接費は、いったん「製造間接費」という勘定に集めておいて、後でルールに従って各製品に割り振ります。 割り振り方はNo.17(後で出ます)でやります。この単元では、集めるところまでで十分です。
この単元でいちばん大事な図です。
材料・賃金・経費 → 仕掛品 → 製品 → 売上原価
材料や賃金は、使った瞬間に仕掛品へ移ります。 できあがったら仕掛品から製品へ、売れたら製品から売上原価へ移ります。 お金が出ていくのではなく、原価が勘定のあいだを順に移っていく、と考えると迷いません。
次の架空の事例で、1つずつ見ます。借方(かりかた=左)と貸方(かしかた=右)の金額は、毎回同じになっています。
材料を買った(掛け) 63,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 材料 | 63,000 | 買掛金 | 63,000 |
材料を使った 51,500円(直接材料費41,200円、間接材料費10,300円)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕掛品 | 41,200 | 材料 | 51,500 |
| 製造間接費 | 10,300 |
直接費は仕掛品へ、間接費は製造間接費へ。これが基本の振り分けです。
賃金を払った 328,000円。そのうち直接作業分307,500円、間接作業分20,500円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 賃金 | 328,000 | 現金預金 | 328,000 |
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕掛品 | 307,500 | 賃金 | 328,000 |
| 製造間接費 | 20,500 |
1つ目が支払い、2つ目が「作業に使った」という振り分けです。
経費 外注加工賃15,000円(直接経費)、電力料8,000円(現金払い)、減価償却費12,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕掛品 | 15,000 | 現金預金 | 15,000 |
| 製造間接費 | 20,000 | 現金預金 | 8,000 |
| 減価償却累計額 | 12,000 |
製造間接費を仕掛品へ割り振った 50,800円(10,300+20,500+20,000)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕掛品 | 50,800 | 製造間接費 | 50,800 |
ここでは実際に発生した額をそのまま割り振っています。予定の率で割り振るやり方は、No.17(後で出ます)で出てきます。あらかじめ決めた率で先に割り振る方法、とだけ押さえてください。
仕掛品の勘定は、月初に30,000円あり、ここまでで次のように増えていました。
30,000+41,200+307,500+15,000+50,800=444,500円
このうち380,000円分が完成し、残り64,500円が月末の仕掛品として残ったとします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 製品 | 380,000 | 仕掛品 | 380,000 |
製品は月初に70,000円、月末に90,000円残っていたとすると、売れた分の原価は70,000+380,000-90,000=360,000円です。売価は500,000円(掛け)とします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 500,000 | 売上 | 500,000 |
| 売上原価 | 360,000 | 製品 | 360,000 |
○ よくある勘違い:材料を買った時点では、仕掛品には入りません。材料の勘定に入り、使った時に初めて仕掛品へ移ります
○ 本番の仕訳は、勘定科目を選ぶ形式です。「どの勘定からどの勘定へ移ったか」を言葉で言えれば選べます
○ 損益計算書の売上原価の考え方は、No.03で扱った流れの工場版です
材料は、買う時期によって単価が違うことがあります。 使った分にどの単価を当てるかで、消費額が変わります。
材料の期首(月初)が100個で単価200円、当月に300個を単価210円で仕入れ、250個を使ったとします。
どちらを使うかは問題文に書いてあります。計算の手順を知っていれば十分です。
実際の単価は、月が終わらないと確定しないことがあります。 そこで、あらかじめ決めた予定の単価(予定消費単価)で、使った分を先に計算する会社があります。
上の例で、予定の単価が205円だったとします。 250個を使った予定の消費額は250個×205円=51,250円です。実際に使った額は51,500円なので、その差を別に記録します。
実際-予定=51,500-51,250=250円。実際のほうが多いので、不利な差異(借方差異)です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕掛品・製造間接費(予定で計算した額) | 51,250 | 材料 | 51,250 |
| 材料消費価格差異 | 250 | 材料 | 250 |
差異の向きは、実際が予定(標準)より多くかかったら借方、少なくすんだら貸方、と固定して覚えます。
賃金も同じ考え方です。 予定の賃率(1時間あたりの賃金)が1,000円、当月の作業時間が合計320時間(直接300時間、間接20時間)、実際に払った賃金が328,000円とします。
予定の消費額は320時間×1,000円=320,000円です。実際の328,000円との差が8,000円で、これが賃率差異(借方)です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕掛品 | 300,000 | 賃金 | 320,000 |
| 製造間接費 | 20,000 | ||
| 賃率差異 | 8,000 | 賃金 | 8,000 |
材料と賃金の差異は、月末に原価差異として整理します。この単元では「差異を別の勘定に分ける」ところまでで十分です。
○ 帳簿の数量より実際の在庫が少ない場合(棚卸減耗)の処理は、問題文の指示に従います 深追いしない
○ 標準原価を使う場合の差異は、No.19(後で出ます)でまとめて扱います
損益計算書は、売上から費用を引いて利益を見る表でした。 製造原価報告書は、その中の「売上原価」のうち、作る部分だけを詳しく書いた表です。
先ほどの事例を並べると、次のようになります。材料の月初は20,000円、月末は31,500円とします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 材料費(20,000+63,000-31,500) | 51,500 |
| 労務費 | 328,000 |
| 経費(15,000+8,000+12,000) | 35,000 |
| 当期総製造費用 | 414,500 |
| 期首仕掛品棚卸高 | 30,000 |
| 合計 | 444,500 |
| 期末仕掛品棚卸高 | 64,500 |
| 当期製品製造原価 | 380,000 |
計算の流れは、「材料費+労務費+経費で総製造費用を出し、期首の仕掛品を足し、期末の仕掛品を引く」です。 当期製品製造原価は、仕掛品から製品に移った380,000円と一致しています。
損益計算書の売上原価は、期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高、で出ます。 ここに、先ほどの380,000円がそのまま入ります。70,000+380,000-90,000=360,000円で、さきほどの売上原価と同じです。
材料・賃金・経費は使った時に仕掛品(直接費)か製造間接費(間接費)に移る。完成したら製品へ、売れたら売上原価へ。予定の価格と実際の差は、差異として別に記録する。製造原価報告書は「総製造費用+期首仕掛品-期末仕掛品=製品製造原価」。
問1 工場で材料を使いました。直接材料費は80,000円、間接材料費は15,000円です。正しい仕訳はどれですか。
問2 工場で働く人の賃金を処理します。直接作業の分が180,000円、間接作業の分が20,000円でした。正しい仕訳はどれですか。
問3 次の資料から、当期製品製造原価を求めます。材料の月初10,000円、仕入90,000円、月末20,000円。労務費150,000円。経費40,000円。期首仕掛品30,000円、期末仕掛品50,000円。いくらですか。
問4 材料の予定消費単価は1個50円、実際は52円でした。2,000個を使い、予定の単価で消費額を計算して仕掛品に移したとき、差異の仕訳はどれですか。
出典:日本商工会議所 簿記検定試験 2級の試験科目(工業簿記:費目別計算・製造原価報告書)https://www.kentei.ne.jp/bookkeeping/class2 。数値は説明用の架空の例。